「答えがないから考え続けるしかない」映画『羊の木』吉田大八監督インタビュー

“超問題作”として物議を醸したコミックを実写化した映画『羊の木』がいよいよ公開。

主演・錦戸亮を始め、木村文乃、北村一輝、松田龍平など豪華キャストが結集した現場でメガホンを執ったのが、吉田大八監督。

あの『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀監督賞をダブル受賞した吉田監督に、学生が思った疑問や感想をぶつけてみました。この記事を読めば『羊の木』をもっと深く感じられるかも…。

・・・原作より主人公の年齢が若くなっているは何故ですか?

もうこれは直感としか言いようがないんだけど、僕自身が「若い主人公を見たかった」っていうのが一番大きいかな。これから日本人を含めた世界中の人たちが、自分たちと違う文化、言葉、習慣の人と生きていかなきゃいけない。僕たち世代よりも若い皆さんにとって「他者と一緒にどう生きるか」はより切実な問題だと思います。映画を作る以上は、より若い方へ向かって開きたいというのがあったのかもしれません。過去に起こったこととしてではなくて、未来の可能性に向けて、この映画を、この物語を、語りたいというのも大きな理由でした。

・・・原作では、受刑者は11人でしたが、6人にしたのは何か理由がありますか?

それはねぇ…4時間の映画は、撮らせてもらえないからです(笑)。やっぱり大勢出して1人ひとりのエピソードが薄くなるよりは、1人ひとりを濃くしたかったというのはありますね。前後編あれば、全員出したかもしれないですね(笑)。でも2時間のなかでいえば良いバランスだったかなと思います。

・・・監督が1番気に入っているシーンや思い出深いシーンはありますか?

バンドを演奏しているシーンです。高校を出て久しぶりに会った同士をまたつなげるものって、バンドをやっていた間柄だったら、やっぱりまた一緒に楽器を持って音を出すということなのかなと。僕も高校生の頃、似たようなバンドをやってました。だから演奏している3人を見ているだけで、妙に懐かしいような気持ちになって。若い皆さんには、どう聞こえるんでしょう、あのような音楽は?

・・・結構ロック調だな~と思いました(笑)。エレキギターが激しくて。

さっき若い方へ向けて開きたいって言ったのに、これは個人的な思い入れで作っているシーンなので、矛盾してますね(笑)。でも木村文乃さんのギターの弾きっぷりには、自分の中ではすごく達成感があります。

・・・(町に祀られている神様の)のろろ様を迎える儀式は実写化にあたってどうやって考えたか教えてください。

お祭りって昔からいろんな歴史を積み重ねてきてるから、割と表面的にさらっとマネするだけじゃ薄っぺらいものになっちゃう。ありそうだけど実際はない「変わったお祭り」というものを作るために、スタッフが綿密なリサーチを重ねた結果です。お祭りのゴールとなるはずの「のろろ」像は海を見下ろす場所に堂々と立っています。日本人にとって他者は常に海から来るもの、という意味もあります。

・・・私は宮腰さん(松田龍平)の車がとても印象的でした。あの車が登場するだけでゾッとしました。

初めて言われた(笑)。最初から怖い感じがするってこと?

・・・不気味な配色というか…もう、あの車がパッと写った瞬間、とても怖くて「宮腰が来る!」みたいな(笑)。
・・・監督が『羊の木』で一番印象に残っている登場人物は誰ですか?

逆に、誰が一番好きだったとか、誰に一番惹かれたかとか教えていただきたいです。

・・・怖いなと思ったのは宮腰で、好きなのは元ヤクザの大野(田中泯)です。
・・・私も宮腰が印象に残りました。

僕はね、その質問を聞かれる度に思い浮かぶ人が変わるんですよ。例えば、この間、観たときには(元受刑者の福元が勤める)床屋のおじさんにグッと来ましたね。なんだかあの人があの街にいてくれてよかったなって思いました。中村有志さんという僕の昔から好きなコメディアンの方に演じていただいたんですが、あの役にちょうどいい深みや味わいが出たなって思います。

…吉田監督は受刑者を街に受け入れるかどうか決断を迫られたらどうしますか?

それは重たい質問ですね。例えば人を殺したと聞いても、誰をどうやって殺したのかによって、その人に対する心構えが違うと思うんですよ。ケンカのはずみで相手を死なせてしまったのか、自分をいじめていた上司を待ち伏せして殺したのか、あんまり考えたくないですが、自分の子供を虐待して殺したのか。ひと口に“殺し”でまとめるのは難しいですよね。

…私は、殺人を犯した人にはあまり近づいてほしくないと思ってしまいます。

もちろん普通は最初にそうやって1回線を引くんですよ。でも、僕も(元殺人犯)6人全員は拒めないとして「この6人の中で誰ならば隣に来てもいいか?」ってことを考えると、今度はもう少し細かく線を引く必要が出てくるんですよね。だからこの質問は本当に良い質問だと思うんです。それに答えられないことが大事で、「大丈夫です」と言うのも嘘くさいと思うし、「絶対無理です」と言うのもあまりにも単純に考えすぎてるんじゃないかって。それは自分のそばにはそんな事は起こらないという前提で、仮定の質問として答えているから。ただ、現実に自分たちの未来を想像するための極端な思考レッスンとして、元殺人犯というなかなかハードな人たちが一度にやって来るという状況がこの物語には設定してあるんです。たぶんこの質問には答えがないけど、考え続けるしかない。質問をすること自体にすごく意味がある。この答え方以外に、僕には答え方が今でもわからないし、いつか自分ごとになるという覚悟を持つために、考えるんだと思います。

羊の木

監督:吉田大八
出演:錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 水澤紳吾 田中泯 松田龍平

2月3日(土)より、ユナイテッド・シネマ札幌、ディノスシネマズ札幌劇場ほかで公開

(c)2018『羊の木』製作委員会(c)山上たつひこ いがらしみきお/講談社

【STORY】
さびれた港町・魚深(うおぶか)に移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。
市役所職員の月末(つきすえ)は、彼らの受け入れを命じられた。
一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。
やがて月末は驚愕の事実を知る。
「彼らは全員、元殺人犯」。
それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、国家の極秘プロジェクトだった。
ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文(あや)をも巻き込み、
小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める・・・。