映画『ナラタージュ』公開記念 行定勲監督の特別講義レポート

ナラタージュ

恋愛映画の名手・行定勲監督の最新作『ナラタージュ』が10月7日(土)より全国公開されます。

原作は島本理生による同名小説。高校教師と生徒として出会った2人が時を経て再会し、決して許されない、しかし一生に一度の究極の恋に落ちていく姿を描く、大人のための恋愛映画です。

先日行われた、札幌スクールオブミュージック&ダンス専門学校と札幌放送芸術専門学校の学生に向けた特別講義に行定監督が登壇。映画監督としての心得と学生から寄せられた質問にとても貴重なアドバイスをいただきました!


Q まずは会場の学生に向けて一言お願いします。

A 覚悟はありますか?

映画を作ること、役者をやっていくことはすごく辛いです。多くの人は「自分はイケてる!」と思ってるだろうけど、僕たちの仕事は他人が決めることなんです。賛否があったら、認めてもらえたことや褒められたことはあまり真に受けず、否とちゃんと向き合っていかないといけません。僕は今回『ナラタージュ』という映画を作るのに10年かかりました。これはかなり賛否両論あっていい映画なのですが、少女マンガがベースになっているキラキラした青春映画がありますよね。実は原作を読むともっと深いものがあったりするんですけど、そういうのは削って全ての人がわかるような映画を作っているんです。でもそうするとエッジがきいてない個性のないものになるので、僕は作り手はそれでいいのか?と思っています。「新しいね」というものや、「かつてあったけどいまの時代にはないそれを、あえて君はやろうとしてるんだね」ということを認めてもらって初めて何かを掴む。そうすると一緒に仕事しようという話になるんです。いつ認められるかわからないし、いつ逆転のチャンスがくるかわからないので、覚悟を持って目標に向かってください。


Q オーディションで重視するポイントなどがあれば教えてください

A 目立とうとしてはいけない。台本としっかり向き合い、相手の動きに合わせられる順応性があることが重要です

オーディションでは、どれくらいの思いでこの役を演じているのか、持っている演技のスキルや雰囲気を見ているのですが、僕は特に声を重視します。僕たちは撮影の時にヘッドホンをしてマイクで拾った声や息遣いを聴き、役者が相手と呼吸が合っているかを確認しているのですが、合わせるためには相手の芝居をよく見ることが重要だと思います。よく吟味して自分の中に飲み込んで、それが独自性に繋がっていく人は役者として良いなと思いますね。

だけどエキセントリックなことをすればいいという話ではありません。日活ロマンポルノの撮影で、芝居が始まると脱ぎ始めた女の子がいました。それはインパクトを与えようとしてやってくれたんですよね。人によっては「勇気があるな」と思うかもしれないけど、僕は「脱げ」とは言ってないのに目立とうとして逸脱するのはどうかなと思うんです。役者でもたまに「俺はやってやるぜ!」とか「監督、やりたいことをやっていいですか?」って張り切る人がいるんですけど、だいたいは僕の気持ちを超えられていないので「はい、じゃあ今度は僕の言う通りにやってね」と1回やらせて終わりです。そうではなくて、台本に書いてあることを自分なりに理解したうえで、相手の動きに順応できるように幾通りもの動きを考えておくことが大事なんです。

僕は撮影が終わってからも台本と向き合うので、撮影期間中はほとんど寝ません。このシーンをどれぐらい理解しているか、彼らがどれくらいの思いでいるのか、役者たちが打ち込んでくるものを見る。そのために僕は役者たちの動きを何十通りも考えます。さっき話した、相手の動きに順応できるように幾通りも考えるということと同じですよね。それをオーディションでできる人もいるので、相手をよく見ること、台本とちゃんと向き合うことは非常に重要です。それくらい真剣に向き合わないと演技は伝わらないと思います。個性を見せつければ良いという話ではありませんが、有名な人がやる個性は別です。有名な人がやる突飛なことはこちらを凌駕してくるので、僕たちもそれに対して返さないといけません。


Q 演者側ではなくカメラマンや美術などの裏方さんに対してどのような思いを持っていますか?

A 僕は裏方さんを「裏方」とは思っていません

僕たちの組を“行定組”と言っているんですけど、業界には他にもいろんな組があります。ある監督はケンカが嫌いで、スタッフに必ず「みんなで仲良く力を合わせて、ケンカのない怒号の飛ばない組にしましょう」と宣言します。そういう組があっても良いと思うけど、うちは平気で怒号も飛びますし気合いを入れるために時にはケンカもします。そういうことがあるのでストレスになってしまうこともありますが、それを見た俳優たちは「真剣に闘っているんだな」、「譲れない物に対してお互い揉めているんだ」と感じるんです。揉め事が嫌いだって言われたら、みんなが譲り合って丸いものになっていきますよね。それで出来上がったものが「観客に届くのか?」と思うんです。

映画で松本潤くんが演じる葉山が、いままで言わなかった自分の過去を海辺で有村架純ちゃん演じる泉に話す深刻なシーンがあるのですが、撮影した場所は誰も来ないような場所だったので漂着物がたくさんありました。それをロケハンで見た美術監督が「これ片づけるのに時間かかるから、撮影は明後日の午後からにしてくれる?」と言いました。だけど僕は漂着物を気に入ったので片付けなくていいと答えました。決して許される関係ではない葉山と泉が、ゴミの中に紛れて歩く姿を文学的に解釈するためにはゴミがあって良いんです。普通のラブストーリーだとあんなゴミの中を歩くことはないから、10人に2人か3人くらいは「あのシーンのゴミがすごかったね」「なんであんなにゴミがあるんだろう」と気づく人がいると思います。それを綺麗にしてしまったら何も伝わりません。

テストの時、ゴミがたくさんあるので松本くんが歩きにくそうにしていたのですが、僕は彼に「真っ直ぐ歩いて」と言っていたので少しつんのめったりしながらも真っ直ぐ歩いていました。それを見た助監督と美術スタッフはカットがかかった瞬間、松本くんが歩いていたところに行って、ゴミを少しどかそうとして。松本くんはそれを見ると僕のところに来て「監督、僕は歩きにくそうに歩いていいんですよね?」と聞いたので「もちろん」と答えると、助監督たちのところに戻って「ごめんなさい、僕が引っ掛かっていたから動かしてくれたんだと思うけど戻してください」と言いました。松本くんにも僕の狙いが伝わっていたようで、その時に僕は「松本潤という俳優は本当に良い俳優だな、すごくクリエイティブを理解しようとしている」と思いました。そしてカメラマンはゴミを強調した撮影をするために、どういう立ち位置がいいのかを探し始めます。「正面からも撮った方がいいんじゃないか」、「足元のゴミが近づいて見えるのも良いね」って。そうすると、ゴミがたくさんある海辺をさすらう2人は非常に大人びて見えて、自然にあるものが美術化していきました。スタッフは自分でそれだけのことを考えることがすごく重要なんです。結構高度な話をしているので伝わらないかもしれませんが、断片として覚えてもらえればなと思います。


Q 魅力的な俳優の共通点は?

A 信念を持っていて頑固です

有村架純ちゃんは会っていない時はすごくアピールがありました。うちの組の専属メイクが「架純ちゃんに会ったら、架純ちゃんが行定組を一度経験してみたいって言ってましたよ」と毎回言っていたんですけど、実際に会ってみるとやりたいと言っていた割にはあまりしゃべらなかったんですよね。架純ちゃんの一番良いところは、人がたくさんいても自分は前に出ようとしないところ。前に出ようとしない分、心の中に何かすごいものがあることがわかりました。それがちょっと頑固にも見えるし、今回の泉に非常にぴったりなポイントでした。話をしていても自分から話すのではなく「監督の話が聞きたいです」と言って、僕から聞いた話を咀嚼していくんです。

『ナラタージュ』はみなさんと同年代の女の子が主人公の恋愛映画ですけど、恋愛の経験なんて若い頃にはあまりないですよね。男の子に土下座するシーンがあるんですけど、男の子に土下座しろと言われて土下座する女の子の話なんてなかなか日常にはないじゃないですか。でも、そういう一見笑えるような変な状況が、観るとすごく切ないんです。それは役者が気持ちを理解して演じないとそうは感じません。架純ちゃんは撮影の時、スタッフやキャストから見える位置にはいるんだけど、少し離れたところに1人でいました。プロデューサーが暇にしてるのかなと思って行こうとするのを、僕は「行くな!」って止めてたんだけど、それは彼女が演技についてずっと考えていたから。彼女はすごく息苦しい時間をこの映画のために過ごしていて、「私はまだこういう恋愛をしてないけど、恋愛って大変なんですね」と言っていました。ということは、彼女は魂を焦がすような恋愛を演じられたということですよね。彼女にそういう恋愛の経験はないので知るはずがないのですが、映像を編集していくとすごく見えるんですよ。「なんて顔をするんだ、僕がかつて恋愛で嫌な空気になった時に見た顔みたいだ」って。それが松本くんと対峙して2人で作りあげた一つの結果なんですよね。

ナラタージュ 有村架純

坂口健太郎くんとは今回初めて共演しましたが、彼は非常に軽やかな人間です。だけど顔のバランスが悪いんですよ(笑)。なぜわかったかというと、彼の役はバイク乗りの設定なのですが、ヘルメットを被った時に一番大きいサイズが入らなかったんです。触ってみたらバランスが悪いことがすぐわかったし、顔を見てもわかった。その歪さが彼の魅力なんです。あと体つきがエヴァンゲリオンみたいです。肩甲骨が出ていて羽みたい。濡れ場のシーンを背中から撮った姿が猫背だったので、今回はそれをすごく活かしています。歩き方もそうだし、癖のような本質的なものを利用していますね。だから決して完璧であることが重要ではなくて、他にはいない独自性のあるほうがいいのかなと思います。

松本くんは嵐なのでいつもスポットが当たっていて輪郭がくっきりしてますよね。彼が演じた葉山は、泉からの見た目や印象しか情報がない、まったく自分のことが吹き込まれていない役だったので最初は戸惑っていました。彼女の人生を狂わすような恋い焦がれる相手であることは確かで、彼女の忘れられない存在なんだけど、泉は「先生のことが全くわかりません」と映画の中で何度も繰り返します。そのわからなさをどう演じればいいかがピンときていないようでした。葉山は「99.9」や「花より男子」の時のヒーローや御曹司のようにはっきりした人間ではないので、まず輪郭をぼかすために前髪と眼鏡で眉毛を消し、そして僕は「アイドルの“松本潤”だと眼光が120%あるから、それを40%くらいに絞ろう」と言いました。目のブラインドがあるとしたら、ぎゅっと絞るということですね。角度によっては明るいんだけど、暗く見えるとしたら50%じゃなく40%だと思ったんです。刑事を演じるのなら体を鍛える、武道家をやるなら武道を始めるなど役作りがありますよね。表情で役作りを言われたのは初めてだったみたいで、彼は「これは一番難しいな」と言っていましたが、架純ちゃんの前に座ると全く違う松本潤がいました。彼は心配になって僕に「40%になってますか?」と聞いたので「そんな感じで良いと思うよ」と言うと、それからだんだん歩き方から何もかもが無防備になっていって、松本くんがいままで見せなかった動きが現れてきたんです。彼の役者としての新たな挑戦は、映画を観てもらうとすごくわかると思います。


ナラタージュを観た私たち学生の感想……

  1. ドキドキが止まらない、リアルで甘く切ない大人の恋愛映画でした。 (しーちゃん)
  2. もう一度じっくり観たくなる映画でした。葉山先生がとてもずるかったです。(ルイス)
  3. 有村さんの表情の変わり方が、こっちものめり込めて良かったです。(えまにえる)
  4. 禁断の恋。凄くもどかしい気持ちで見てました。役者さん1人1人の演技がリアルで圧倒されました。(ふうこん)

行定監督の特別講義を聞いて感じたこと……

  1. 役者の個性を活かしつつ、顔の角度や髪形など1人1人のことを考えてくれているんだ、素敵だなと思いました。(えまにえる)
  2. 観た人がその世界に入り込めるものを作るには監督も役者もその世界に入り込んでないとできないものだと感じました。(ルイス)
  3. 作品を作り上げるのに役者や各スタッフの細かな配慮が1つになってより良い物になっていくんだなと感じました。(ふうこん)

映画『ナラタージュ』

10月7日(土)より札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほか 全国ロードショー
配給:東宝 アスミック・エース

『ナラタージュ』衣装展

期間 10月2日(月)~10月13日(金)
場所 アピア 太陽の広場:札幌市中央区北5西3・4丁目 地下1F